腹水
腹水を在宅で抜いてもらえますか?
連携先の方から在宅希望の患者さんではあるが、頻回に腹水を抜かなくてはならないために、退院できずに入院が継続してしまっているという状態のため、相談を受けることがあります。
可能であることをお伝えした上で、当院にて訪問診療を開始とさせていただきました。
確かに腹水でお腹は張っており、そのために体がだるく、食事も食べられていないので、入院中は栄養補給のために点滴を多くされていました。点滴をするから腹水がたまってしまって、しんどくなってまた腹水を抜く。この悪循環に入っていたようでした。この悪循環をどこで止めることができるかというと、医療者が行っている『点滴』をやめることこそが、ポイントとなるのです。
がんの終末期になると、人の体はエネルギーを体内に入れたからといって、それを有効に使用することはできなくなっています。そのため、水分や栄養が処理できなくなると、痰が多くたまる。腹水や胸水として水分貯留する。全身が浮腫むという症状として表れます。私どもの医療行為として、点滴をやめることを本人と家族へ説明しました。すると、家族としては栄養が点滴できないと、体力が一気に落ちてしまい、寿命が縮んでしまうのではないかという心配をいただきました。その心配は理解できるものです。
終末期には、体に食事や水分を入れないことによって、逆に蓄えられた腹水から体の細胞は水分を使用してくれるようになります。そして栄養がすべて良い影響をあたえるわけではありません。という事を説明しご理解いただいたことで、点滴なしの生活を送っていただきました。すると、その後は腹水が徐々に減っていき、パンパンだったお腹はむしろ痩せている状況にまでなってくれたのです。
この方は1か月後には口から召し上がることができるようになって、腹水と戦っているときよりもずっと穏やかに療養することができたのです。行うつもりだった医療行為をやめることは、患者さんにとって『引き算』になるだけではありません。身軽になることでやれるようになることもあるのです。
医療行為を行わないことのメリットをこれからは伝えていきたいと思います。
人は自分の身体が求めているから、食事を摂っていて、求めていないから食べないのかもしれませんね。